バラ科配偶体型自家不和合性因子S3-RNaseの1.5Å分解能X線結晶構造解析


松浦 孝範1, 酒井 宏明2, 海野 昌喜2, 崎山 文夫3, 乗岡 茂巳1

1阪大・蛋白研・化学構造, 2阪大・蛋白研・物理構造, 3四天王寺国際仏教大学

第1回 日本蛋白質科学会年会 (大阪, 2001.6.1-3)

高等植物の多くは、近親交配を回避し植物集団内における遺伝的多様性を保持するため、自己と非自己の花粉を認識し非自己花粉でのみ受精する性質をもつ。この現象は自家不和合性と呼ばれ、S遺伝子座により支配されている。S遺伝子座には雌しべと花粉でそれぞれ特異的に発現する複対立遺伝子がコードされ、これらの遺伝子産物の分子間相互作用により雌しべ・花粉間の自他認識が行われる。自家不和合性は、S遺伝子型の遺伝様式により胞子体型と配偶体型に大別されるが、我々が研究している配偶体型では雌しべ側S遺伝子産物がRNase T2型のリボヌクレアーゼ (S-RNase) であると同定されている。S-RNaseは花粉側S遺伝子産物と相互作用して自他認識を行い、自己花粉のrRNAを分解して花粉管伸長を停止させると考えられているが、花粉側因子は未だ同定されず、配偶体型自家不和合性の分子機構の本質は依然不明である。本研究では、S-RNaseによる自他認識機構と花粉管伸長停止反応を分子レベルで解明する第一歩として、バラ科ニホンナシS-RNaseのX線結晶構造解析を行った。

ニホンナシには7種類のS遺伝子型とそれに対応するS-RNase (S1-からS7-RNase) が同定されているが、7種類のうち最も糖鎖が少なく、 非常にアミノ酸配列の相同性が高いアイソフォーム (S5-RNaseはS3-RNaseと96%の相同性をもつ) が存在するS3-RNaseに的を絞り、PEGを沈澱剤とした蒸気拡散法によりS3-RNaseの結晶を作製した。構造解析は多重同型置換法 (MIR) により行い、1.5Åの分解能においてfree R = 20.85%, R = 18.42%まで精密化した。S3-RNaseは、6本のα-ヘリックス, 1本の310-ヘリックス, 7本のβ-ストランドから構成されるα+β型の蛋白質で、二次構造のプロファイルは立体構造既知のRNase T2型酵素 (RNase LEやRNase MC1) とほとんど一致した。活性部位P1, B1, B2サイトを構成すると考えられるアミノ酸残基の立体配置も、他のRNase T2型酵素とほとんど一致した。ただし、触媒残基 His33のイミダゾール環は他のRNase T2型酵素と比較して90°回転した配置になっており、この変化が活性におよぼす影響については、今後さらに検討を行う必要がある。

バラ科S-RNaseのアミノ酸配列比較から、アミノ酸置換が頻繁に起こっている約15アミノ酸残基から成る領域 (hypervariable (HV) 領域) が見い出され、花粉側因子に対する認識部位と推測された。RNase T2型酵素では、この領域の前半がループ構造、後半がヘリックス構造をとり、活性部位とは離れて分子表面に露出しているが、S3-RNaseのループ構造が非常に長いのが特徴的である。しかし、このループを構成する数個のアミノ酸残基の側鎖は分子内部にあるアミノ酸と水素結合や塩橋を形成していることから、その構造は比較的固定されていると考えられる。S3とS5-RNaseのアミノ酸置換は200残基中わずか9個で、そのうちHV領域に存在するのはHV領域の中央に位置する Lys51とHV領域のC末端に位置するHis62, Glu65, Asn78の2つの部位に分類される。花粉側因子はこれらの2つの部位のどちらか、あるいいは両方を認識して、S3とS5を識別していると考えられる。特に後者は、変異を起こしているアミノ酸が一次構造上で隣接していないにもかかわらず、立体構造上ではそれらの側鎖が水分子を介して互いに水素結合可能な距離に位置しているため、認識部位の候補として非常に興味深い。



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松浦 孝範 (MATSUURA Takanori)
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